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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
うちにいれば、昼も夜も、門のそとに黒い外套の男が立っていた。
「奥さま、へんなやつが、勝手口のそとに、ウロウロしてますよ。いま買いものから帰ったら、そいつがあたしの顔を見てニヤッと笑いました。泥棒じゃないでしょうか」
きよが、息せききって報告した。ああ、そちらにもか。泥棒でないことはわかっていた。
「黒い外套に、鼠色のソフトをかぶった男?」
「いいえ、茶色のオーバーに鳥打帽です。人相のわるいやつです」
(すると、見張りがふたりになったんだな)
あけみはいそいで二階にあがって、カーテンのすきまから、表通りを見た。ここにもいる。どぶ川のふちの電柱にもたれて、横目で二階をジロジロ見ている。いつもの黒いオーバーのやつだ。
そして、その夜は、おもて裏の見張りが三人になった。克彦は書斎のアームチェアを窓際によせて、それにかけたまま、カーテンの隙間から覗いていた。暗くてハッキリは見えぬけれど、ひとりは電柱の蔭、ひとりは散歩でもしているていで、うしろ手を組んで、ノソリノソリと、向うの町角まで歩いては、また戻り、また戻りしていた。
(根気のいいことだ。こちらも根気よくやらなければ。