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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
なんだか、いやにオドオドしている。
花田と聞くとウンザリした。(まだ幽霊がつきまとっているのか。だが、今日のはお別れの手紙かも知れないぞ。そうであってくれればいいが)彼は二階へ急いで、その手紙を探した。事務机のまんなかに、克彦の用箋が一枚、キチンと置いてあった。
たちまち、今日一日の楽しさが消し飛んでしまった。
(明智がやってくる。あの恐ろしい明智がやってくる)
いつのまに上がって来たのか、あけみがうしろから覗いていた。彼女も唇の色をなくしていた。目が飛び出すほどの大きさになって、喰い入るように用箋を見つめていた。
お留守でしたので書き残します。明智小五郎氏が、是非一度おふたりにお会いして、お話が伺いたいと申されますので、明日午前十時ごろ、僕が明智さんをお連れします。どうかおふたりとも、ご在宅下さい。
花田
北村克彦様
ふたりとも何も云わなかった。物を云うのが恐ろしかった。いよいよこれで解放されたかと思っていたのが、逆に最悪の状態になったのだ。
ふたりは無言のまま、食堂におりて、テーブルについたが、お通夜のような晩餐だった。それに、給仕のきよが、今夜は変にオドオドしているのも気になった。