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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

「楽になるとは、どういう意味だ」

「つまり、告白をしてしまうんですよ。あなた即ち北村克彦が股野重郎を扼殺した犯人で、そのにせアリバイを作るために、元の股野夫人あけみさんが、股野さんの替玉になって、窓から顔を見せ、助けを呼ぶというお芝居をやったことをね」

花田はいやに丁寧な云い方をした。

「ばかな、そんなことは君たちの空想にすぎない。僕は白状なんかしないよ」

「ハハハ、なにを云ってるんです。たった今、君とあけみさんとで、白状したばかりじゃありませんか。あれだけ喋べったら、もう取り返しがつきませんよ」

「証拠は? 君が立ち聞きしたというのかい。そんなこと証拠にならないよ。君は嘘をいうかも知れないのだからねえ。僕があくまで否定したら、どうするんだ」

「否定はできそうもありませんねえ」

「なんだって?」

「ちょっと、そこをごらんなさい。ベッドの枕の方の壁ですよ。電燈がとりつけてある腕金の根もとですよ」

克彦もあけみも、花田のおちつきはらった語調に、ゾーッとふるえ上がって、そこへ目をやった。電燈の光にさえぎられて、腕金の根もとなど、少しも気がつかなかったが、見ると、そこに妙なものが出っぱっていた。