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あさのかぜ

朝の風

宮本 百合子

「日本評論」1940(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页

青空文庫

そして、塵芥籠が高くいくつも積まれている空地の横で、路は三またに岐れている。その角のところで、サヨはどの道を選ぼうかと迷った。一本一本の道がどっちの方角に行っているのかちっともわからないばかりでなく、もしこの時ふと親切心に動かされたひとが現れて、どちらへいらっしゃるのですかと訊かれでもしたら、サヨは我にもなく顔を赧らめて少しまごついたかもしれない。ゆくところがサヨ自身にわかっていなかった。というより、サヨは家を探す気でこっちの方へ歩いて来ているのであったが、そんな貸家がどこへ向ってどの道を行ったら在るのか、見当がついているわけでもないのであった。

同じような三本の道筋だが、行手に高く見える欅の梢に心をひかれて、一番左の横丁を行った。

東京じゅうに家が払底していた。サヨの住んでいる崖の上の小さい家は、重吉と一緒に世帯をもっていた家ではなくて、サヨが一人暮しになってから、友子やなんかと歩いてさがして越した家であった。その家が見つかったとき、

「あら、いいわこの家。寂しくないし、風とおしだっていいし」

とサヨは大変よろこんだ。そして、女主人なのに苦情も云われず借りられるときまったとき、