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あさのかぜ
朝の風
宮本 百合子
「日本評論」1940(昭和15)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页
自分のうちの生きものでも叱るような口調で友子が内から格子をガタガタさせた。
「こないだなんか、わたしが出て、あとをしめたら、もう入れないんだもの」
まあこの主人の私がよ、というその調子にはこの夫婦の暮しにある独特な諧謔がひとりでに溢れていて、サヨは気分が転換されるのを感じた。
こんな時刻に現れればサヨがどこからの帰りだということを説明する必要も二人の間にはないのであった。
「お茶いれましょうね」
湯のわく間、友子は内職の編物をまた膝にとりあげている。この夫婦も、もう久しく家をさがしていた。家が古くなりすぎて、風のきつい夜なんかはおちおち眠っていられない。でも、ここで探しているのはただ家だけであった。家の見つかるまでは、つい足をふみはずして準助が二階からパイプをくわえたままころがり落ちて、ひどく腹を立てたりしながらも二人でやって行っている。自分がこうやって時々瞳の中に小さい火をもやしたような顔つきになってさがしまわるのは何だろう。家ばかりのことでない。それはサヨも知っている。
友子の編棒からは、一段一段と可愛い桃色の毛糸の赤坊ケープがつくり出されていた。