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あさやけ

朝やけ

豊島 与志雄

「光」1947(昭和22)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页

青空文庫

それによっておれは却って救われた気持ちになる。思えば浅間しい限りだ。

なるべく早く酔ってしまいたく、立て続けに飲んで、さてその後では時間をもてあまし、屋上をぶらつくことも、しばしばあった。――先日もそうだった。冷かな夜風がそよ吹いて、上弦の月が西空にかかっていた。その淡い月光は、高いビルの屋上では、地上よりも身にしみて、園部の所謂旅情をそそる。おれは胸壁にもたれて、煙草を吸った。その時、中野が近づいて来た。彼を平気で迎えられたのも、旅情のせいだったであろうか。

彼はもう相当飲んでるらしく、二三度大きく息をついた。そして何か憚るようにゆっくり口を利いた。さすがにおれに向っては女口調は使わなかった。

「酔っていらっしゃいますか。」

「いや、そう酔ってもいないよ。なぜだい。」

「だって、あなたは酔っ払うともうめちゃくちゃですもの。」彼はちらっと笑ったらしかった。「ちょっとお話があるんですけれど……。」

それを彼はなかなか切り出さなかった。煙草を一本吸う間かかった。睫毛の長いその眼が、淡い月光のせいばかりでなく、弱々しく悲しそうに見えた。

「マダムのことなんです。