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あさやけ
朝やけ
豊島 与志雄
「光」1947(昭和22)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页
おれはその温気のなかに没入したくなった。がその時、おれのすぐ鼻先に、彼女の耳があった。
その耳は、寝乱れた髪の中からへんになま白く浮き上っていた。いびつな楕円形が更に長めに渦巻いて、その耳朶の下端は、ひきつったように頸部にとけこんでいる。耳朶というものは、おれが思うには、頬から頸への肉附とはくっきりと区切られて、まるっこく盛り上っているのが、上品なのだ。ところが、女の耳には何如に下品なのが多いことか。喜久子のもその一つで、下端の区切りがなく、地肌へひきつられて融けこんでいる。――その耳を、中野が舐めたのだ。
そのことは、彼女が自ら告白したのだから、嘘ではあるまい。たといおれが強要したにもせよ、そんな話をとっさに作りだせるほど利口な彼女ではない。
彼女と互の肉体を識り合う仲となってから、おれはしばしば中野の幻影に悩まされた。そして遠廻しにあてこすりを言ったものだが、或る時、気にくわぬことがあって、中野との関係を詰問した。彼女は笑って取り合わなかった。中野はただ酒を飲みに来る客というだけで、それ以外の関わりは何もないと、頑強にそして平然と否定した。
「ただ、耳を舐められただけよ。