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みいらのみみかざり
木乃伊の耳飾
国枝 史郎
「現代」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,905 字 · 12 页
どこ迄もどこ迄もその廊下を博士は走って行くのである。博士は幾時走ったか、それは博士にも解らなかった。兎に角、廊下は尽きたのである。
長い廊下の尽きた所に、巨然と聳える天然岩を、驚異の眼で眺め乍ら、高く松火をかかげた博士は、岩の面に記されてある、一行の文字を認めた時思わず「あっ!」と声をあげた。
岩にはこのように記されてある。
「君に願う! 来たり給え、地下室へ」
それからの博士の経験は、夢のように不思議なものであった。先ず第一に驚いたことには、天然岩の中腹が、丸く大きく刳られていて、博士の体が触るるや否や、グルリと軸なりに回転し、岩の彼方の密室を眼の前に現わしたことである。博士は躊躇せずに飛び込んだ。ああ密室の奇怪なことよ! 計り知られぬ円柱が、室を支えて立っている。室の中央に厳そかに、石造の棺が置いてある。室に立ち籠る香の匂! それは曹達と没薬と土瀝青とを合わせて造ったところの、古代の湯灌の匂である。
博士は松火を振り立てながら、自分の考古癖に誘われて、石棺の方へ近寄って行った。棺の内には木乃伊が在る。胸へ手を組んだその木乃伊の、手の指に握られた耳飾は、巨大な金剛石に鏤められ、数千年の往時から、二十世紀の今日まで、同じ光に輝いている。