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きそおんたけのりょうめん

木曽御嶽の両面

吉江 喬松

「太陽」博文館、1908(明治41)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页

青空文庫

金剛杖を突き、呪文を唱えながら行く御嶽道者らで、その鈴声に伴われて行けば知らず知らずに木曾路に這入ってしまうのである。

桔梗が原の尽頭第一の駅路は洗馬である。犀川の源流の一つである奈良井川は駅の後方に近く流れ、山がやや迫って山駅の趣が先ず目に這入る。駅は坂路ですこぶる荒廃の姿を示している。洗馬を通り抜けると、牧野、本山、日出塩等の諸駅の荒廃の姿はいずれも同じであるが、戸々養蚕は忙しく途上断えず幾組かの桑摘帰りの男女に逢う。この養蚕はこれら山駅の唯一の生命である。

離落たる山駅の間を走って中仙道は次第に山深く這入って行く。雲が晴れて日が次第に照らし出す。山風はいかにも涼しいが、前途の遠いのを思うとすこぶる心もとない。

桜沢、若神子、贄川、平沢の諸駅、名前だけは克く耳にしていた。桜沢以西は既に西筑摩郡で、いわば前木曾ともいうべき処である。これらの村々から松本の町へ出て来る学生がある。家から栗の実を送って来たといっては友人を集めてその御馳走をするのであった。その後では必ず「木曾のなあ――」という例の歌を唄って聞かせた。今では女の学生も出ている。同行者の一人の太田君は自分の教え子だと言ってその子の家へ立寄った。