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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
中央信濃の少年が幼時から西方を指して、第一にその名を教えられる山はこの山だ。
今見る図はその乗鞍の後姿だ、母親の懐に抱かれて、
坊やのお乳母は何処行った。
あの山越えて里へ行った……
と夕暮ごとに唄うのを聞かせられた、その山の後方へ廻って来たのだ、不思議な国へ来たような気がする。
その夜は山中の旅行に餓えていた美味、川魚のフライ、刺身、鯉こく、新鮮な野菜、美しい林檎、芳烈な酒、殆んど尽くる所を知らず四人して貪った。
翌日はまた霧雨が降っていたが、予定通り出発した。出る匆々草鞋を泥に踏み込んで、高山の町を出た。
雨は降ったり止んだり、折々日がぱっと照り出すかと思うと、また急に雲が重く重って来たりする。道は少しずつ爪先き上りになって、東北の方角を指して、また山の中へ向うのである。四方を見渡しても小さな山が一面眼前を埋めていて、眺望がさらに開けない、せせこましい感じをするばかりである。
一里半ばかり行くと坊方という山村がある。其処から蒲田の温泉と上高地の温泉へ行く道とがあるが、それへは行かず、旗鉾を通って平湯へ行こうというのであった。五里行くとその旗鉾という村へ出た。