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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
咳一つしても雲へ響き、何か眠っている者の眼を醒し、荒れ出されてはたまらないような気がする。――森然とした中をただ黙って通って行く。
雲の中を道は自ら曲って、立枯の林の中から深い谿の上へ出た。谷からの風に雲はぱっと吹き払われた。
「ああ、やっと信州の山かな。」と言いながら老爺は道の曲り角へまた腰を卸した。「あすこに見えるのが焼山でさあ、そら、信州の山はやっぱり大きいね、この辺まで来ると、気がせいせいする、へえ、この辺を下りせえすりぁ、信州でさあ。」
私たちも腰を卸ろして一休みした。日光が美しく信濃の山々を照らしている。青空は濃く、空気は澄んで、すがすがしい。何とも言えない好い心持だ。
鳥の歌が聞えだした。坂路を少し降りて来ると、渓流が東北に向ってながれている。もう梓の上流だ、道はその谷の上をめぐりめぐりて下る、上高地への分岐点も過ぎて大曲りに谿を一回りすると、青い草山の向うに白骨温泉の家屋が目に這入って来た。