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きそおんたけのはなし
木曾御岳の話
木暮 理太郎
「日本山岳会会報」1933(昭和8)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,366 字 · 15 页
今はあるかどうか知りません。外にも御岳講の講中が幾組も泊っているので、給仕の女達がもう沢山だという客の手からお椀をひったくる、もういらない、もっとおあがりなどと飯時には大騒ぎでした。
それから鳥居峠を越えて藪原へ下ってそこへ泊ったのです。夜になると小娘が花漬を売りに来る。丸、四角、扇形などさまざまの形をしたちいさい曲げ物に、紅、淡紅、白と、主に梅、桃、李などの花や蕾を巧に按配して入れたもので、木曾の宿では大抵売りに来ました。見た目には誠に綺麗なものです。それからお六櫛というのがありまして、これも今はないかも知れませんが、それを売りに来ました、それがどういうわけでお六櫛というのか謂れは聞きませんでしたが、とにかく本物の黄楊で作った特有な形をした櫛でした。鳥居峠には頂上に茶屋がありまして、そうめんを売っている。冷たい水に浸してあるのでそれが非常にうまい。真正面に御岳が見える。鳥居が立っていてそれに落首が書いてあった。
お鳥居のやうに両足ふんばつて 山をにらんで拝むつらつき
というのです、ちょっとおもしろいと思いました。
峠を下れば本当の木曾街道で、その頃は今とちがって木曾街道もなかなか風情があったように憶えています。