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みぼうじん

未亡人

豊島 与志雄

「諷刺文学」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,474 字 · 21 页

青空文庫

丁度、出かけようとしていますところで……どう致しましょう……急な用事がございましてね……。」

あなたは嘘を言ってるのではありませんでした。墓参にきめると、それがもうあなたにとっては、さし迫った急用となっていたんですからね。

小川夫人はちょっと顔を曇らせましたが、すぐに、媚びるような笑みを浮べて、また出なおして来ると言いました。そして、大した用件ではなく、先達てお頼みしておいたことについて伺ったのだと明かしました。そこで初めて、あなたは思い出しましたね。小川夫人の従弟にあたる一家が、今年はじめ大連から引きあげてきたのだが、思わしい就職口もなくて困っているので、どこかにお世話願えまいかと、そういう話だったでしょう。それをあなたは、うっかり忘れてしまっていたのです。

「あのことでございますか。分りましたわ。今すこしお待ち下さいません。よい御返事をさしあげたいと、いろいろ聞き合せてるところでございますよ。出来るだけお力添え致しますわ。」

小川夫人が感謝し且つ依頼して、辞し去ったあと、あなたは眉根を寄せて、煙草を一本ふかしましたね。それから眉根を開いて、これはどこかへ世話してやらなければなるまいと考えましたね。