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みぼうじん

未亡人

豊島 与志雄

「諷刺文学」1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,474 字 · 21 页

青空文庫

――いいえ、それはきまっていました。

そんなことは嘘ですよ。あなたの御主人がただ政界の黒幕として終始されたおかげで、あなたが立候補されても、公職追放令にひっかかることはないと、それが分明していただけで、あなたはまだ本当に決心はつかず、資格審査の申請に署名していなかったではありませんか。

あなたは考えあぐんで、慌しく外出しましたよ。

丁度お誂えむきに、お茶の集りがありましたね。この集りの主催者が、党の首領株の一人たる大塚さんの夫人であるだけに、表面は単なる社交的な空気のなかに、自然と、あちこちで政治向きの事柄が囁き交わされましたでしょう。その一つとして、ちょっとした隙間に大塚夫人はあなたに囁きましたね。

「こんど、立候補なさいますそうですね。期待しておりますわ。」

あなたは左手を着物の襟元にもってゆきながら、微笑しました。

「あら、わたくしなんか、出る幕ではございませんわ。皆さんがしきりにお勧めなさいますけれど……。」

そのような外交的な言葉を、大塚老夫人は無視してかかりましたね。

「わが党の勝利は眼に見えているそうですよ。」そして大塚夫人は声を低めました。