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みらいのてんさい

未来の天才

豊島 与志雄

「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页

青空文庫

」

「何処へ?」

「何処でもいいさ。僕の行く処へ黙ってついて来たまえ。素敵に嬉しいことがあるんだ。」

河野は眠そうな眼をそれでもくるくる動かして、私の顔をじっと眺めた。

「晴々としたいい日じゃないか。早く出かけよう。後ですっかり分るよ。そしていい着物を着て来給え。」

「一体こんなに早くからどうするんだ。僕はまだ飯も食ってやしない。」

「飯なんかどうでもいい。僕が何でも君の好きなものを奢ってやる。僕もまだ食ってやしないんだ。」

それでも彼はなにかと云っては、愚図ついてばかりいた。私は多少焦れったくなってきた。これは寧ろ、凡てをうち明けた方がよいかも知れないと考えた。また自分の喜びを友に分ちたくもあった。私は仕方なしに其処へ坐って、手短かに一切のことを話してきかした。話してる間、彼は妙にじろじろ私の顔を見ていた。なぜそんなに見るのか私には分らなかった。そして私が指輪と大島とのことを云い出すと、彼は馬鹿に大袈裟な声を立てた。

「そいつは愉快だ。結末が一番振ってるね。よし、そんならすぐ出かけよう。」

私よりも彼の方が急きだした。私達はすぐに外へ出た。風のないうち晴れたいい日だった。