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みかいなふうけい

未開な風景

宮本 百合子

「婦人公論」1927(昭和2)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,478 字 · 16 页

青空文庫

みのえも今朝は何だか自分がいい匂いなのや、何か別の生物みたいなのを感じたのであった。

「ね、みのえちゃん、私と結婚してくれる?」

結婚という言葉はみのえに漠然と飛躍を期待させ、こわいような、珍しいような正体の解らない感動そのものがいい心持であった。みのえは黙って、黒いお下髪のリボンが動くほど合点をした。

「じゃ約束してくれる?――約束すると他の人と結婚出来なくてもいい?」

みのえはまた合点をした。

いきなり、髭がみのえの頬ぺたを刺した。油井の顔が、みのえの視野一杯にひろがった。彼女は油井の眼が兎の眼のように赤かった気がし、夢中になって彼の胸に自分の顔をつっこんだ。

○

母親が縫物をひろげている。みのえは傍の小机に肱をついてぼんやりしていた。

「明日は土曜日だね」

「…………」

「油井さんまた来るだろうか」

「さあ、知らないわ」

みのえは冷淡さで自分の感情をカムフラージした。

お清はしばらく黙って袖の丸みを縫っていたが、表へかえし、出来上りの形をつけながら独言のように云った。

「あの人も早く奥さん貰えばいいのにさねえ。――もっともどんな気でいるんだか知れやしないが」