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すえっこ
末っ子
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1957(昭和32)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,564 字 · 55 页
「残念どころではない、それは殺生というものだ」と平五は呟いた、「これを売ればすぐにも御家人の株が買える、うちを出て独立することができるんだ。しかも、おれがみつけなければ、こいつ、清鑑堂の店の隅で、いつまでも埃をかぶっていたことだろう、つまり、要するに」
平五は屹となり、額をあげて強く頭を振った。よくない考えが頭にうかんだのである。彼は心の中で、それは侍らしからぬ考えだ、単に人間としても恥ずべきことだぞ、と自分を叱った。けれども、いちど頭にうかんだ思案はなかなか承知しない。黙っていればわかりゃしない、自分の鑑識で発見したものではないか、おまけに、それで長年の望みがかなうのだ、細江に知らせたところで、却って事を面倒にするばかりだぞ、黙っていろ黙っていろ、という囁きがしつっこくつきまとった。
「えい」と彼は立停って気合をかけた、「えい、この野郎しっかりしろ」
向うから来た通行人がぱっと脇へとびのいた。平五の叫びを聞いて吃驚したのだろう、こちらも驚いて、いそぎ足に歩きだした。
平五は三日間思い迷った。家を出ることは出るが、どうしても越中堀へ足が向かないのである。