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すえっこ

末っ子

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1957(昭和32)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,564 字 · 55 页

青空文庫

十

「わたしは、あなたを」と母は袖で眼を押えながら、喉を詰らせた、「あなたが末っ子だから、あまやかしては悪いと思って」

「お祖父さんやお祖母さんもそうでした」と平五は続けた、「お祖父さんはお祖母さんが私をあまやかすと云うし、お祖母さんはお祖父さんがあまやかすと云う、そんなふうにみんなで私があまやかされていると云いながら、誰一人あまやかしはしなかった、いちどでも私をあまえさせてくれたことがありましたか、お母さん、そんな記憶がいちどでもありますか」

「わたしはただ」と母はまた云った、「ただあなたをしっかり育てたいと思って」

「そうです、そのとおりです」と平五はまた頷いた、「私はお母さんを責めているんじゃありません、私は末っ子で三文安いかもしれないが、決してあまやかされたことはない、ということをわかってもらえばいいんです、では失礼します」

十

平五は自分の部屋へ戻り、両刀を差し、短刀を持っただけで、内玄関から出ていった。母はそのあいだ付いて廻り、父にあやまれと泣いてくどいた。

家を出てどうする気だ、どうしようもないではないか、それともなにか当てでもあるのか、と訊いた。