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ほんいんぼうしゅうさい

本因坊秀哉

野上 彰

「囲碁世界」1950(昭和25)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,685 字 · 6 页

青空文庫

、渋滞することがない。流れる水のようにさらさらと打ち進んで、しかも、碁は非常に広くなつている……これは秀栄の名人芸として有名な話なのだが……秀哉はそれに反して、対局時間は永く、打つ手を、一手一手読み切らないと打てない棋風のようだつた。しかも中盤の力闘には、古今に比べもののない激しさを持つている。強いて例をあげれば文化文政年間の名人本因坊文和があるけれど、秀哉名人が明治から大正、昭和にかけて戦つたたくさんの争い碁を調べてみても、その特色ははつきりしている。たとえば元棋正社の総帥雁金準一との有名な対局も、布石からいきなり激しい攻合いが初まつて、そのまま終局になつた。いま、並べ返してみるとさながら大石を山の頂きから追い落すどうどうたる響きを耳にする思いがある。

また、呉清源との天元の一局にしても、あの激しさは、ちよつと近世の囲碁史に類がないものである。あの碁は、実際に打たれた対局の棋譜のおもしろさもあるが、対局の裏のいろいろなエピソードがぼくたちを楽しませた。決定的な勝をもたらした運命の一手について、本因坊門下の前田七段が発見したのが真相であるとか。その一手を呉清源は気がつかないでいて、黒の勝を信じていたのに、あの運命の一手が打たれる日の朝、あの妙手があるのを発見し、必敗を覚悟していたとか。