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さっぽろまで
札幌まで
寺田 寅彦
「鉄塔」1932(昭和7年)11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,545 字 · 14 页
なるほどここは要塞であると気が付く。要塞というものは必ず景勝の地であり、また必ず地学的に最も興味ある地点になっているのは面白い事実であろう。大神宮のすぐ下にソビエト領事館がある。これも面白い事実である。門の鉄扉の外側に子守が二、三人立って門内の露人の幼児と何か言葉のやりとりをしていると、玄関から逞しいロシア婦人が出て来て、逞しいむき出しの腕でその幼児を軽々と引っかかえて引込んで行った。ソビエトの幼児が函館の町っ児の感化に染まることを恐れるのであろう。少し下りた処の洗濯屋の看板を見ると何某プラチェシナヤと露文字で書いてある。領事館御用の洗濯屋さんだからかと思ったが、電車通りを歩いていると、露文字の看板は外にも二つ見付かった。昔長崎を見物した時に見た露文の看板の記憶が甦って来るのを感じた。
とある町角で妙な現象を見た。それは質屋で質流れの衣類の競売をしている光景らしく判断された。みんな慾の深そうな顔をした婆さんや爺さんが血眼になって古着の山から目ぼしいのを握み出しては蚤取眼で検査している。気に入ったのはまるでしがみついたように小脇に抱いて誰かに掠奪されるのを恐れているようである。