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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

「君は駄目だよ、毒舌を弄するばかりで福運のない男だよ、この前わざわざ手紙であんなに金を買っとけと云ってよこしたのに、何もしなかったじゃないか」

むきな調子で戸山をそうきめつけておいて、飯島は、黙ってきいている慎一に向い、

「貝柱っていったって、白い綺麗な菓子みたいに乾したものでね、このくらいの」

と手で箱の大きさを示して見せた。

「箱入りで、臭くもなんともありゃしないんだ。二三年は平気でもつもんだ」

貝柱が白くて綺麗で菓子みたいであることを、飯島はひどく熱心にのべた。

そんなに白くて小さくて綺麗な貝柱の類で、巨万の富をつめるという想像が、山林とか鉱山とかいう対象とはちがった魅力の刺戟であるらしかった。現に土地の有数な実業家の一人がそれで資産をこしらえた。

「運輸会社の重役でね、そんなところの重役ぐらいしていたとこでそんな資産の出来っこがないんだ。よほど前のことだが或る機会にずばり訊いたらね、いや実は貝柱の内職があるんだってわけさ。それで思い付いたんだ」

「買いしめるわけか」

「そうさ」

テーブルの上で、飯島はポンポン煙草をたたきながら、

「丁度やりかかろうとしたとき、急にこっちへ来ることになってしまったが……今度はやるよ」