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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

ことがある。しかしながら、その感じにしろ現実には複雑で、異様な瞬間の感じのなかに、やっぱり自分の足の平はしっかり水底を踏んで動いている感じは変らないし、洗われている感じにしろ、それは向う脛のあたり、という自覚が伴っている。

そのような生活感情が不安と呼ばれるなら、慎一は自分のその不安ぐるみ、そういうものを発生させている今の時代を、歴史のうつりゆく興味ふかい世相として見る心持も強くある。ひどいにはひどいが、面白くもある。そう思って生きている自分の心理も今日というものをこしらえている日本の一つの要素としてみるのであった。

三

実直な大工の老夫婦が大家であるその家は、小さいなりに階子段の工合などもよく出来ていて、すまい心地はわるくなかった。特に峯子の気に入っているのは、二階の六畳の座敷についている一間の窓である。人通りのあまりない、杉垣の並んだ往来と門内の小庭に面した南向に、ありふれた一間の出窓があって、別にもう一間西側があいていた。そこは鴨居から敷居までずっとあいていて、白い障子に欅の影が映ったりする時、部屋の趣が深められた。外にゆったりした幅の手摺があって、それは程いい露台であった。