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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

暫く行くと、歩速の整った彼等の脚が、先へ行く三四人の学生の一団に追いついた。結婚祝いの帰途でもあるらしく、少しばかり酔っている青年たちは歩道一杯の横列に制服の腕をくみ合わせ、罪のない高声を、

たかさごや  たかさごやア

この浦ふうねに帆をあげて

高砂や  たかさごやア

と祝婚行進曲の節をもじった合唱で、のしているのであった。

自然、車道の方へあふれてその一団を通りこしながら、峯子はふっと笑いののぼって来る気がした。陽気な合唱は若さと無邪気さを溢らしつつ、しかし誰もその先の文句は発明していないと見えて、いつまでも高砂やアの繰返しへ戻りながら、その声は、だんだんうしろに遠のき、やがて月の光と町の鈍い軒燈の混りあったような街角のあたりで消えてしまった。

道のりの三分の二も来るとどっちからともなく足どりがゆるやかになった。

「煙草あがりたいのじゃないの、代りましょうか」

今度は峯子が子供をうけとると足どりは益々ゆるやかになり、慎一はすこし顔を仰向けるようにして心持よさそうに煙草の烟をはきながら歩いていたが、いきなり何の前おきもなく、

「どうだい峯子、おれの信用はなかなか大したものだろう」