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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

そして、そこに、自分たちの時代の若さの一つの形のあらわれ、誠実の一つの姿があるのではなかろうか。慎一の心持では、彼の所謂えらいが面白い、という今日を生きる気持がそこに一致するのであった。

そのとき、流れあっているものを感じたように峯子が顔を擡げておだやかに真直な視線で慎一を見た。その峯子の瞳は日向で金ぽい茶色に燿いている。慎一は美しいと思った。峯子はそのまま捲毛のある首をちょっと傾けるような動作をして、

「――大体おんなじようなことを考えていた?」と訊いた。

「照坊にきいて御覧」

峯子は笑った。それから極く自然な気分のつづきで、

「こないだのお兄さんの話ね」

と云い出した。

「返事いそぐの?」

「そうでもないだろう」

「ひとりできめてしまったりしないでね」

「大丈夫だよ」

「お兄さん、この頃一生の方針がお得意だけれど、それにしろ、いろんな立てかたがあると思うのよ。そうでしょう? 臆面もなくえらくなったりするの、私、何だかいやなの、自分たちの姿としてみても。――お願いね」

峯子の云いかたは素朴だが、臆面なくえらくなるという巧まない表現のうちに、周囲の現実を直観しての或るものが語られているのであった。