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むらいちょうあんないれのからかさ
村井長庵記名の傘
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,794 字 · 16 页
とは云え楽屋をサラケ出せば、今長庵はご難場なのよ。それはお前にも解っているはずだ。さてそこでご相談、何とお前の持っている六十両の金の中から、三十両貸してくれめえか」
これを聞くと十兵衛は、颯とばかりに顔色を変えた。早くも見て取った村井長庵、「ハハア、こいつア貸しそうもないな」……こう思うと悪党だけに、調子を変えて高笑い。
「ワッハハハ、嘘だ嘘だ。娘を売った血のでる金、何で俺が借りるものか。ワッハハハ気にしねえがいい」
――で、ホッと安心し、顔色を直した十兵衛が、明日は四時立ちで帰家ると云い、隣室へ引き取って行った後を、長庵胸へ腕を組んだが、さてこれからが大変である。
他人の科を身に引き受け
「飛び込んで来た福の神、六十両の大金を、外へ逃がしちゃ冥利に尽きる。どうがなこっちへ巻き上げてえものだ」
思案に耽っているその折柄、玄関で訪う声がする。
「ご免下され、ご免下され」
呼吸苦しそうな声である。長庵方の施療患者、浪人藤掛道十郎である。足駄を穿き雨傘を持ちしょんぼりとして立っている。
「藤掛殿か、先ずお上り」
気が無さそうに長庵が云う。
「ご免下され」と上って来た。