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とうきょうへちかづくいちじかん
東京へ近づく一時間
宮本 百合子
「文学評論」1935(昭和10)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,889 字 · 6 页
「つづけて二三本出ますね」
と、綿密に自分の小型旅行案内をくっては調べてやっている。
「米原三時五十五分ですよ」
「これ何時にいぐんです?」
「上野が五時半頃でしょう」
満鉄は、そうきいても、ぼーとしたように黙っている。
いつしかレールは左右に幾条も現れ、汽車は高みを走って、低いところに、混雑して黒っぽい町並が見下せた。コールターで無様に塗ったトタン屋根の工場、工場、工場とあると思うと、一種異様な屑物が山積した空地。水たまり。煤をかぶった狭い不規則な地面の片端を利用した野菜畑。色さまざまの干物の一杯ある家屋の裏。汽車は高いところを走っているから、そういうゴミゴミした大都会の入口の町並一帯の直ぐ向うの広いコンクリの改正通りには均斉を保って街燈が立連り、トラックなどが走っているのまで、車窓からつきとおしに見渡せるのである。
紺足袋は娘に、もう直ぐだよ、もう東京だよと云いながら、まだ満鉄に興味をもち、
「ホウ、それは新しいんですか」
と何かの持ちものに感歎している。
「いいや、持っていたものです。つかってるものに税はかからないんです」
「新しいの、かけますか?」
「かけるね」