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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

七

武太夫もまったくそう思った)

――斬った。

と思う隙。蝙也は飛鳥のごとく跳上ると、虚を衝かれてあっという武太夫の懐へつけ入りざま、利腕を執って、

「や!」

とひと声。武太夫の体は飜筋斗を切って、だだだだだと梯子段を転げ落ちた。

「伝右衛門殿、お主の番だ」

蝙也が下へ喚く、

「心得た!」

伝右衛門が叫び返す刹那、――つつッと横手へ人の走寄る気配と、遠くから、

「あ、危いーッ」

という女の悲鳴とが同時に聞えた。

七

蝙也が反射的に一歩ひらく、とたんにさっと斬込んで来た剣、体を躱されたから梯子口の手摺へがっと切込んだ、――見ると意外にも山根道雄である、

「や、貴様、山根ではないか」

蝙也が驚いて跳退く、

「くそっ!」

と道雄は刀を外し、狂気のように顔をひき歪めながら、無二無三に斬込んで来た。

「馬鹿者、なんの恨みで蝙也を斬る、待て、待たぬか山根!」

「ええイ、くそっ!」

「おのれ、斬捨てるぞ」

蝙也の体を忿怒が走った、山根道雄は前後の判断も喪ったらしく、獣のように猛然と斬りつけた。刹那! 蝙也の体が沈んで、

「やっ!」

という凄じい掛声が四壁に反響したと思うと、山根道雄の手から大剣がすっ飛び、その体は独楽のようにきりきり舞いをしながら、だあっと階下へ顛落して行った。