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かきいろのかみふうせん
柿色の紙風船
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,032 字 · 28 页
「おや、ここに寝ていた患者さんは?」
と林檎のように血色のいい看護婦が叫んだ。彼女の突っ立っている前には、一つの空ッぽの寝台があった。
「ねえ、あんた。知らない?」
彼女は、手近に居た青ン膨れの看護婦に訊いた。
「あーら、あたし知らないわよ」
といって編物の手を停めると、グシャグシャにシーツの乱れているその寝台の上を見た。
「あーら、本当だ。居ないわネ」
「ど、どこへ行ったんでしょうネ」
「ご不浄へ行ったんじゃないこと」
「ああ、ご不浄へネ。そうかしら……でも変ね。この方、ご不浄へ行っちゃいけないことになってんのよ」
「まあどうして?」
「どうしてといってネ、この方、つまり……あれなのよ、痔が悪いんでしょ。それでラジウムで灼いているんですわ。判るでしょう。つまり肛門にラジウムを差し込んであるんだから、ご不浄へは行っちゃいけないのよ」
「治療中だからなのねェ」
「それもそうだけれどサ、もし用を足している間に、下に落ちてしまうと、あのラジウムは小さいから、どこへ行ったか解らなくなる虞れがあるでしょう」
「そうね。ラジウムて随分高価いんでしょ」
「ええ。婦長さんが云ってたわ。