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けいまのげんそう

桂馬の幻想

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页

青空文庫

「ヨー。ベッピン、牛のクソふむなア」

とはやしたてる野良の年寄もいた。娘教祖はせせら笑って、

「虫ケラどもが!」

「田舎にも虫ケラが多いじゃないか」

「日本中、虫ケラだらけさ」

平然たるものであった。山上の茶店へ来てみると、表の茶店は戸締りが施されていて、接待のため予定の休業と見うけられた。裏のクグリから屋内へはいると、タタミ、否、ムシロをしいた部屋は一間しかない。その部屋の柱に、木戸が荒ナワでガンジガラメにいましめられている。

「いま戻ったよ」

と娘教祖は帰宅の挨拶に木戸の額に平手打をくらわせて、

「さ、お前はこッちへおあがり。お前を煮て食うとは云わないよ。なーに。これは普通のことでね。毎日ではないが、よくやることさ。昨日はひどかった。お前が帰ったあとでさ。薪ザッポウくらわしてやったよ。顔にはケガはさせないがね。お前にくだらないことを喋りちらしやがったからさ。オレは見とおしさ。みんな耳にきこえてくる。顔にもちゃんと書いてあるのがお前たちには判らないだけさ。お前はそこに坐って見ていなさい」

野村を指定席に坐らせておいて、娘教祖は木戸の前に立った。

「ほら。ほら。