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さくらじま

桜島・日の果て・幻化

梅崎 春生

梅崎春生『桜島・日の果て・幻化』。同一底本的分册已合并为一书。收入:桜島、日の果て、幻化、風宴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 页

青空文庫

他の家と違うのは、ここだけが二階家である。中二階みたいな妙な構造で、一見平屋風のように見える。玄関の板の間に、古ぼけたオルガンが置いてある。案内を乞うと、主人らしい老人が出て来た。

「この人、泊めて上げて」

女が言った。

「二十年前、海軍でここにいた人よ」

主人はするどい眼付きで五郎を見た。五郎が靴を脱いでいる間に、女はいなくなった。主人が言った。

「あんた。久住五郎というひとじゃなかか」

言葉は電撃のように、五郎の背中を撲った。五郎は顔色を変えて、思わず立ち上った。

「ど、どうしてそれを知っているんだ?」

五郎はどもった。

「二十年前――」

「いや。いや」

主人は視線をやわらげて、空気を両手で押えつけるようにした。

「いまさっき枕崎の立神館から電話がありもしてな。あなたの人相風体など説明して――」

「丹尾という男ですね」

「はあ。着いたら電話を呉れと――」

「電話なんかしなくてもいいんですよ」

やっと動悸がおさまって、五郎は答えた。

「風呂に入れますか。ああ。この花をぼくの部屋に――」

ダチュラはもう萎び始めていた。一体丹尾は何で五郎をつけ廻すのか。つけ廻す理由があるのか。