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さくらじま
桜島・日の果て・幻化
梅崎 春生
梅崎春生『桜島・日の果て・幻化』。同一底本的分册已合并为一书。收入:桜島、日の果て、幻化、風宴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 169,810 字 · 345 页
ビールと交互に口に運びながら、大きな窓ガラス越しに、外を眺めていた。駅舎には相変らず人々が忙しげに出入りし、駅前にはタクシーやバスが着いたり、走り出したりしている。五郎は昔から、駅の雰囲気は好きであった。各人がお互いにつながりを持たず、自分の目的に向って、ばらばらに動き廻っている。総体的にはまとまりがない。盲目の意志とでも言ったものが、人間をちょこちょこと動かしている。それが彼の気に入っていた。
〈電報を打つのは、早過ぎたかな〉
その考えがちらと頭を通り過ぎる。フォークを皿に置き、コップの残りを飲み干す。ゆっくりと立ち上った。
広場を横切り、駅の前でタクシーを拾った。
「東京屋にやって呉れ」
今夜泊る予定の宿屋である。鎮痛剤がきいて来たのか、節々の痛みはよほどやわらいで来た。大通りからちょっと横町に入って、車は停る。降りて宿屋の門をくぐる。帳場に行って案内を乞う。四十前後の番頭らしい服装の男が出て来た。
「今夜泊りたいんだがね」
五郎は言った。
「お内儀さん。元気かね?」
「お内儀さんって、何じゃろ?」
「そら。ここは昔、そば屋だっただろう。その時の女将さんさ」