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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

何よりも先に翁の謡は舞いぶりとソックリの直線的な大きな声であった。むろん割鐘式ではない。錆の深い、丸い、朗かな、何の苦もない調子であった。

梅津朔造氏の調子は凜々と冴える、仮名扱いの綺麗な、派手なものであった。

山本毎氏のは咽喉を開放した、九州地方一流の発音のハッキリし過ぎた、間拍子のキチンとしたもので、いつも地頭を承っていた。

桐山孫次郎氏のは底張りの柔かな含み声であった。一番穏当な謡と翁門下で云われていた。

又斎田氏のは凝った、響の強いイキミ声で、謡っている顔付きが能面のように恐ろしかった。

梅津利彦氏のは声が全く潰れた張りばっかりの一本調子で、どうかすると翁の声と聞き誤られた。

いずれも翁の謡振りの或る一部分を伝えたものであったらしいが、それ等の謡い盛りの一同の地謡の中に高齢の只圓翁が一人座り込むと、ほかの声は何の苦もなく翁の楽々とした調子の中に消え込んで行った。

吉本董三氏か大野仁平氏であったと思う。

「先生の傍に座ると、イクラ気張っても紡績会社の横で木綿車を引いているような気持ちになる」

と云って皆を笑わせていたが、全く子供ながらも、そんな感じを受けた。