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うめづしえんおうでん
梅津只円翁伝
杉山 萠円
「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页
にしたホテというもの一面に刺して天日に乾かす。乾くと水飴と砂糖と醤油でカラカラに煮上げて、十匹ぐらいずつ食膳に供する。何ともいえない雅味のある小皿ものであった。
また俎板に残った臓腑は白子、真子を一々串の尖端で選り分けて塩辛に漬ける。これが又非常に贅沢な風味のあるものらしかった。
翁自身は勿論、老夫人や女中も総がかりでこの仕末をする。筆者も翁の姪に当る荒巻トシ子嬢と二人で手伝った事があったが、ナカナカ面倒なのでじきに飽きてしまった。
いよいよ獲物が片付く頃は日が暮てしまって、日に焼けた翁の顔が五分芯のラムプに赤々と光る。
そこで例の一合足らずの硝子燗瓶が傾いて翁の顔がイヨイヨ海老色に染まる。ニコニコと限りなく嬉しそうにしている翁の前に筆者は頭を下げてお暇をする。
「おお。御苦労じゃった。又来なさい」
◇
只圓翁は重い曲を容易に弟子に教えなかったばかりでなく、謡の中の秘伝、口伝はもとより、稽古の時に叱って直した理由なぞは滅多に説明しなかったらしい。後で質問しても、
「インマわかる。稽古が足らん稽古が足らん」
とか何とか追払われたものらしい。