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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

高足の人達が、

「私も老年になりましたから一つ何々のお稽古を……」

とか何とか云って甘たれかかっても、

「稽古に年齢はない。年齢は六十でも稽古は孩児じゃ」

なぞと手厳しく弾付けられたという話が時折耳に這入った。又、

「ここのところはどういう心持ちで……」

なぞと大切な事を尋ねても、

「尋ねて解るものなら教える。尋ねずとも解る位にならねば教えてもわからぬ」

と面皮を剥いで追っ払ったり、

「心持ちなぞはない。教えた通りに真直に謡いなさい。いらざる心配しなさんな」

なぞと叱っているのを見受けた。

◇

ところで翁の弟子で一番熱心な前記斎田惟成氏はよく翁の網打ちのお供をした。魚籠を担いで川までお供して行く途中の長い長い田圃道の徒然なままに翁と雑談をしながら何気なく質問をすると、翁は上機嫌なままに大事な口伝や秘伝を不用意に洩らすことがあった。どうかした時には師匠能静氏から指導された時の有益な苦心談などを述懐まじりで話して行く事もあったらしい。

これは斎田氏の稽古の秘伝で、後にその心持ちで謡ったり舞ったりして翁から賞められた事が度々あったので、とうとうこの斎田氏の秘伝のお稽古法が露見してしまった。