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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

この非凡な翁の介抱に顔を見合わせて困り合ったが、結局、翁の頑張りに負けて今一度、稽古を続ける事になった。

門弟連中が又も舞台に招集された。その中で、翁は元の通り椅子に凭れて稽古を続けたが、今度は疲れないように翁の胴体を帯で椅子に縛り付け、弟子の一人が背後からシッカリと抱えて「隅田川」一番の稽古を終った。

翁は、それ以来全く床に就き切りになったが、それでも仰臥したまま、夜具の襟元の処に脚の無い将棋盤のような板を置き張扇でバタバタとたたいて弟子の謡を聞いた。

明治四十三年の四月、桜の真盛りに、福岡市の洲崎お台場の空地(今の女専所在地)で九州沖縄八県聯合の共進会があった。頗る大規模の博覧会同様のものであった上に、日露戦争直後であったため非常な人気で、福岡名物、全市無礼講の松囃子が盛大に催されて賑った。

翁の門下の人々は高齢で臥床中の翁に赤い頭巾と赤い胴衣を着せ、俥で東中洲「菊廼屋」(今の足袋の広告塔下ビール園、支那料理屋附近)という料亭に運び、そこで食事を進めて後、その頃はまだ珍らしかった籐の寝椅子に布団を展べて翁を横たえ、二本の棒を通し、人夫に担架させ、門弟諸氏が周囲を取巻いて、翁に共進会場を見物させた。