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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

◇

毎年一月の四日にはお鏡開きといって、お稽古に来る子供ばかりを座敷に集めて、翁が小豆雑煮(ぜんざいのようなもの)を振舞った。それがトテモ美味しくて熱いので、喰っている子供連は一人残らず鼻汁を垂らしたのをススリ上げススリ上げしていた。

翁はニコニコと眺めていた。(佐藤文次郎氏談)

◇

だんだん上達して来ると本番(全曲)を習う。

筆者は三歳ぐらいから祖父に仕込まれていて、翁の処へ入門した時は数番の謡を丸暗記していたのでイキナリ本番を習ったものであったが、むろんこちらから曲目を撰む事は出来なかった。翁が本人の器量に応じて次の月並能の番組を斟酌しながら撰んでくれるのであった。

翁の処へ稽古に行くと、玄関の上り框の処(机に向っている翁の背後)に在る本箱から一冊引出して開いてくれる。時には、

「その本箱を開けてみなさい。その何冊目の本の何という標題の処を開けてみなさい」

と指図する事もあった。

それを最初から一枚ぐらい宛、念を入れて直されながら附けてもらうので、やはり二度ほど繰り返しても記憶え切れないと叱られるのであった。