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ばいしのつえ

梅颸の杖

吉川 英治

「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页

青空文庫

みせるぞという凄い盗児のよくやる挑戦的な揶揄にちがいない――と、こう二様の考え方が相違した結論を出した。

山陽は、どっちとも考えなかったが、やはり母の解釈をそのまま持たせておきたい気がした。けれど又、学者気質のほかに大坂町人の特質をも多分に持って、計数もたしかなら世俗にも通じている小竹のことばをも、そう一概には笑えなかった。

×

戸を閉ててから、裏の川波の音が、よけいにしんと耳につく。

もう母は眠ったらしい。

小竹と二三の者も帰り、松蔭も別間へ退がって寝んでからは、厚い夜具の行儀よく二つ並べられた部屋は、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)と山陽だけの水入らずになった。

叔父の杏坪の噂、春風の消息、郷里の家にのこして来たままもう二十四にもなって、家事の納まらない山陽の長子の余一夫婦のこと。

何くれとなく、彼が寝もの語りに訊いているうちに、梅はかすかな寝息をかいて、返事をしなくなった。

『がっかりなすったのであろう』

山陽は、そう思いながら、ふと、母の床のわきに、枕刀のように置いてある杖に目をとめた。

珍しい杖を持っておいでになる。