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きょうゆう

梟雄

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,160 字 · 31 页

青空文庫

そのとき信長の所有した兵力は千かせいぜい千五百だ。美濃には万をこす精鋭がそろっているのだ。もっとも、兵力の問題ではない。人情などは、オックウだ。援軍などは、よけいなことだ。

「小僧め。ひどい苦労をして、大汗かいているじゃないか。、無理なことをしたがる小僧だ」

道三は苦笑したが、さすがにバカヤローのやることは、バカヤローらしく快いと小気味よく思った。

道三は信長を自分の陣の近所へ寄せつけなかった。味方の家来もずッと後へひきさげた。

道三は鶴山を降り、長良川の河原へでて陣をしいた。身のまわりに自分のわずかな親兵だけひきつれて、一番前へ陣どったのだ。

「鉄砲の道三が、鉄砲ごと城をとられては、戦争らしく戦争をする気持にならないわさ」

道三は笑って云った。

「お手本にある戦争を見せてやることができないのは残念だが、悪党の死にッぷりを見せてやろう」

そして家来と別れる時にこう云った。

「今日は戦争をしないのだから、オレは負けやしないぜ。ただ死ぬだけだ」

道三はヨロイ、カブトの上に矢留めのホロをかぶって、河原の一番前に床几をださせてドッカと腰かけた。

敵の先陣は竹腰道塵兵六百。