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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

彼は検査所の電話機が故障である話を聞いても、まだ目下の重大なる事態をハッキリ認識する力がなかった。かならず東京へ電話が通ずるつもりの彼は、万国橋を渡ったところに自働電話函が立っているのを見つけて、そのなかに飛びこんだ。だが受話器をとりあげて、交換手をいくら呼び出してみても、ウンともスンとも云わなかった。

「これは困った。電話が通じない。電話局は電源を切られたのにちがいない」

彼は仕方なく駅の方へ行ってみることにした。

万国橋通を本町の方へ、何気なくスタスタ歩きだした彼はものの十歩も歩かないうちに、ハッと顔色をかえた。ああなんという無残な光景が、前面に展開されていたことだろう。

まず、目についたのは、恐ろしいアスファルト路面の亀裂だ。落ちこめば、まず腰のあたりまで嵌ってしまうであろう。

その凄じい亀裂の上に、電線が反吐をはいたように入り乱れて地面を匍っていて、足の踏みこみようもない。ただ電柱が酔払いのように、あっちでもこっちでも寝ている。

もっと恐ろしいものが目にうつった。すぐ傍の二階家が、往来の方に向ってお辞儀をしていた。大きな屋根が地面に衝突して、ところどころ屋根瓦が禿たように剥がれている。