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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

眉を青々と剃りおとした女の眼は、提灯のように大きかった。

杜は、この女が気が変でないことに気がついた。それで駈けよってみると、なるほど女の身体にはどこも障りがないようではあるが、只一つ、左の手首が、倒れた棟木の下に入っていて、これがどうしても抜けないのであった。

彼は女の背に廻って、その太い腕をつかんで力まかせにグイと引張った。

「いた、た、た、たたッ。――」

と女は錐でもむような悲鳴をあげた。

杜は愕いて、手を放した。

女は一方の腕をのばして、杜の洋服をグッとつかんだ。

「待って、待って。……あたしを見殺しにしないで下さいよォ、後生だから」

杜は、またそこに跼んで、棟木の下に隠れている女の手首を改めた。なんだか下は硬そうであるが、とにかくその下を掘り始めた。

「だ、駄目よ。手の下には、かねのついた敷居があるのよ。掘っても駄目駄目。……ああ早く抜けないと、あたし焼け死んじまう」

なるほど、露地の奥から火勢があおる焦げくさい強い熱気がフーッと流れてきた。たしかに火は近づいた。彼は愕いてまた女の腕に手をかけ、力を籠めてグイグイと引張った。女はまた前のように、魂切れるような悲鳴をあげた。