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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

といって言葉を切り、しばらくして小さい声で「助かりますわ」

とつけて、ポロポロと泪を落とした。

杜は先に立って歩きだした。女は裾をからげて、あとから一生懸命でついてきた。見るともなしに見ると、いつの間にか女は、破れた筈の白い湯巻をどう工夫したものかすこしも破れてみえないように、うまくはき直していた。

杜は焼け土の上を履んで、丸の内有楽町にあった会社を探した。

すると不幸なことに、会社は、跡片もなく灰塵に帰していた。そしてその跡には、道々に見てきたような立退先の立て札一つ建っていなかった。

やむを得ず杜は、名刺を一枚だして、それに日附と時間とを書きこみ、それから裏面に「横浜税関倉庫ハ全壊シ、着荷ハ三分ノ二以上損傷シタルモノト被存候」と報告を書きつけた。それをすぐ目に映るようにと、玄関跡と覚しきあたりに焼け煉瓦を置き、その上に名刺を赤い五寸釘でさしとおし焼け煉瓦の割れ目へ突きたてようとしたが、割れ目が見つからない。

「あのゥ、こっちの煉瓦の方に、丁度いい穴が明いていますわよ」

後ろをふりかえってみると、例の手首を引張りだしてやった女が、煉瓦の塊をもって、ニヤニヤ笑っていた。