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かんおけのはなよめ
棺桶の花嫁
海野 十三
「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页
お千は遠慮して、向うを向いていたが、もうたまりかねて闇の中に寝がえりを打ち、杜の方に向き直った。そして彼女は、乳房をさがし求める幼児のように、彼の方に寄ってきたのであった。
杜は睡りもやらず、痛がるお千の腕をソッと持っていてやった。――
(お千は、あのことを思っているのじゃあるまいな)
杜の耳朶が、不意に赤くなった。
お千はいつの間にか、彼の左側にピタリと寄りそって歩いていた。
「手は痛みますか。――」
と、彼は今までにないやさしい声で尋ねてみた。
「すこしは薄らいだようでござんす」
お千はニッコリ笑った。
浅草橋から駒形へ出、そして吾妻橋のかたわらを過ぎて、とうとう彼等の愛の巣のある山の宿に入った。所はかわれども、荒涼たる焼野原の景は一向かわらずであった。
ただ見覚えのある石造り交番が立っていたので、彼が今どの辺に立っているかの見当がついた。
交番の中はすっかり焼けつくしたものと見え、窓外の石壁には、焔のあとがくろぐろと上ひろがりにクッキリとついていた。中には何があるのか、その前には四、五人の罹災者が、熱心に覗きこんでいた。そのうちの一人が、列を離れて、杜の方に近づきざま、