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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
「経済往来」1934(昭和9)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页
とっさの出来事で、良一には訳が分らなかったが、やがて川村さんが諦めたように席についた時には、竹山の手の中で、袱紗づつみがとけて、小さな拳銃が光っていた。彼の眼は全く狂人らしく没表情にこわばって、その眼には底知れぬ疑惑の念がこもっていた。
「まあ坐り給え、話してあげよう。」
川村さんの声には、先刻の慌てた様子とちがって、人を威圧するようなものがあった。
竹山は拳銃を握ったまま、黙って席についた。
「それは、さきほど、或る人から預ったものなんだ。その人は、大変悲しいことがあって、自殺しようとまでした。然し思い返して、不用になったその拳銃を、僕に当分預けた。僕にとっては、それは大事な預り物なんだ。嘘ではない。君は僕を信頼してるなら、その信頼にちかって、嘘は云わない。信じてくれ。」
その、川村さんの言葉には、心からの誠実がこもっていた。それにうたれてか、竹山は静にうなだれていた。それからきっと顔を上げた。
「私に預らして下さい。」
二人はじっと眼を見合った。魂と魂とがじかにふれあうような見合いかただった。
「よろしい。」とやがて川村さんは云った。「その代り、誓ってくれるだろうね。