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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
「経済往来」1934(昭和9)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页
そんな場合だったから、椎の木の土地を買おうなどと僕が本気で考えたのも、決して不自然ではなかったようだ。
まあ大体そういう情況だったところへ、思いもよらない人物が登場してきた。
七
或る朝、小鈴から、竹山茂吉という人を知らないかとの電話だった。僕も驚いた。竹山茂吉というのは、かねてきいていたところによると、竹山茂樹の父親なのだ。
大体のことを電話できいて、僕はすぐ小鈴にあってみた。
彼女は前夜、ある大勢の宴会の席に出て、その後で、他の料理屋からかえってきた。行ってみると、前の宴会に出ていた客なのである。黙りこんで酒ばかり飲んでいた。何となくうすっ気味のわるい、もう相当年配の男だった。彼は変にふさぎこんだ様子で、わざわざお呼びしてすみませんと、いやに丁寧だった。それからすぐに、先程の話の竹山という人のことを聞きたいのだとのことだった。
その先程の話というのが、小鈴の記憶にはよく残っていなかった。――もう宴会も終りに近く、座が手持不沙汰になってきた時、芸者たちだけ四五人集って、なんでも写真の話がでたらしかった。そして写真と素顔とがどうだとかいうことから、小鈴は僕からきいていた竹山茂樹のことを思いだし、写真もばかに出来ないと主張し、百枚近くも生顔をうつしとってる人があると云った。