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たてごし

楯輿

山本 周五郎

「日本士道記」晴南社創立事務所、1944(昭和19)年12月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 8,377 字 · 17 页

青空文庫

そう云うだけの経験があるので、出まかせの強弁でないことはいちおうたしかだった。……それにしても福島家には名高い勇士が多いので、与八郎くらいの身分や経歴では、さほど眼だつほうではなかったが、或るときかれは人の意表に出ることをやって、いっぺんにおのれの存在をはっきりさせた。

慶長三年の秋のことである、清洲城の外曲輪にある大崎玄蕃の屋敷で重陽の宴の催しがあり、与八郎も招かれて出た。玄蕃は鬼という名をとった豪勇の士だったし、席に列なる客の多くが名だたるつわもので、盃がまわりだすと活溌に戦場ばなしが始った、与八郎は身分も軽く、若年でもあるので、ずっと末席のほうに坐っていたが、昂然たる眉は一座を睥睨するかにみえ、大きくあぐらをかいた身構えにはどこかしら挑みかかるような壮志を示していた。そのうちに上座のほうからふとかれに呼びかける者があった、長尾勘兵衛といって三千五百石の老臣である、「……そのほうの死にざまという言葉はかねて人づてに聞いていたが」と勘兵衛が云った、「たしかにそれも誤りではないが、それだけにとらわれるのは褊狭だと思う、総じて戦場には是ひとつという心得はないものだ、時に応じ変に当って進退攻防の機は微妙をきわめる、そのとき死にざまなどに執着すると却って後れをとるものだ、そうひとすじにつきつめないで、もう少し