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とちのはな

橡の花

梶井 基次郎

「青空」1925(大正14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,685 字 · 22 页

青空文庫

四

私の空想はその言葉でぼろ船の底に畳を敷いて大きな川を旅している自分を空想させました。実際こんなときにこそ鬱陶しい梅雨の響きも面白さを添えるのだと思いました。

四

それもやはり雨の降った或る日の午後でした。私は赤坂のAの家へ出かけました。京都時代の私達の会合――その席へはあなたも一度来られたことがありますね――憶えていらっしゃればその時いたAです。

この四月には私達の後、やはりあの会合を維持していた人びとが、三人も巣立って来ました。そしてもともと話のあったこととて、既に東京へ来ていた五人と共に、再び東京に於ての会合が始まりました。そして来年の一月から同人雑誌を出すこと、その費用と原稿を月々貯めてゆくことに相談が定ったのです。私がAの家へ行ったのはその積立金を持ってゆくためでした。

最近Aは家との間に或る悶着を起していました。それは結婚問題なのです。Aが自分の欲している道をゆけば父母を捨てたことになります。少くも父母にとってはそうです。Aの問題は自ら友人である私の態度を要求しました。私は当初彼を冷そうとさえ思いました。少くとも私が彼の心を熱しさせてゆく存在であることを避けようと努めました。