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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

」

次郎は、胸の奥に、急に凉しいものを感じた。しかし、顔付は相変らずむっつりして、

「僕、先生にお目にかかりたいんですけれど。」

「そう? 先生は、いま、畑ですの。しばらく二階で本でも読んでいらっしゃい。あたし、先生にすぐそう申して置きますから。」

次郎は、しかしそう聞くと、

「じゃあ、僕、畑の方に行きます。」

と、すぐ中門から庭を横ぎって畑に行った。畑は庭つづきで、間を低い生垣で仕切ってあったのである。

胡瓜や、茄子や、トマトなどのかなりよく生長している中に、朝倉先生は、猿股一つの素っ裸でしゃがみこみ、しきりに草をむしっていたが、次郎が挨拶をすると、かんかん帽をかぶった頭をちょっとねじむけて、

「やあ、本田か。」

と、言ったきり、また草をむしり出した。

次郎の張りきって来た気持は、それでちょっと出鼻をくじかれた恰好だったが、先生は、むしった草をかきよせながら、間もなくたずねた。

「ひとりで来たんかい。兄さんは。」

「まだ帰って来ないんです。」

「まだ? ……高等学校はもうとうに休みのはずだがね。」

「今度の休みには帰らないかも知れないって、手紙でいって来ました。