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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

と言われたのが、新しい不安となって、彼の頭を困惑させたのである。

「私の言っていることがわかるかね。」

「わかりません。」

二人は、眼を見あったまま、ぽつんとそんな問答をとりかわした。そして、それからしばらくは、鶏のくっくっと鳴く声だけが聞えていた。

「君は、いま、狭い崖道を歩いているんだよ。」

次郎にとって、そんな言葉は、むろんもう少しも珍らしい言葉ではなかった。彼は、しかし、先生の語気や顔付にただならぬものを感じて、汗ばんだ額の下に、大きく眼を見張った。

「君は、これまで、永いあいだ苦労をして険しい道をのぼって来たようだが、その道は、これからの踏み出しよう一つで、君をもつと高いところに導いてくれる道にもなるし、君を見る間に破滅させる道にもなるんだ。そして、その大事な踏み出しは、――」

と、朝倉先生は、しばらく考えてから、

「一口に言うと、信か不信かでそのよしあしがきまるんだ。わかるかね。」

次郎にはさっぱりわからなかった。彼は眼を地べたにおとして考えるふうだった。先生は、無理もない、という顔をして、

「信というのは、悪魔の足でも、洗ってやればそれだけきれいになる、と信ずることだ。