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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

先生は、大急ぎで黒板を消した。しかし、今度は、

「もう一度、はじめからやってみせるんじゃ。」

とは言わなかった。その代りに、――それは生徒たちの全く予期しなかったことだったが――いきなり教壇をおりてつかつかと次郎の席に近づいて来た。次郎の席は、廊下に近い方から二列目の一番まえだったのである。

次郎の席のまえに立った先生は、精いっぱいの落着きと威厳とをもって言った。

「お前は教室を騒がすけしからん生徒じゃ。」

次郎には何のことだかわからなかった。彼は驚きと怪しみとで、眼をまんまるにして先生の顔を仰いだ。

「教室を騒がす生徒は、教室に置くわけにはいかん。出て行くんじゃ。」

先生は、そう言って、むずと次郎の右腕をつかんだ。

「僕が、どうして教室を騒がしたんです。わけを言って下さい。」

次郎は、このごろにない烈しい声で叫んだ。同時に、彼の左の腕は、しっかりと机の脚に巻きついた。

「先生の命令に背くんじゃな。」

先生は、ぐっと次郎を睨みつけ、それから教室全体を一わたり見まわした。

「僕、わけがわかんないです。わけを言って下さい。」

「わけは自分でわかっているはずじゃ。