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おうしゅうきこう

欧洲紀行

横光 利一

横光利一『欧洲紀行』。同一底本的分册已合并为一书。收入:欧洲紀行、静安寺の碑文、北京と巴里(覚書)、我等と日本、スフィンクス(覚書)。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,107 字 · 241 页

青空文庫

五月三十一日

六月一日

三十年祭の事とて、各国からセザンヌの逸品ばかりが集って来ているので、長くフランスにいる者も、これだけは見られぬとの事だ。チュイレリイの画館には総数百四十点と手紙類とだ。外庭の噴水が青葉の間で輝いている。

セザンヌの初期から晩年にかけての変化は、文学の変化と等しいと思った。この人は真似から真似を追い、変貌に変貌を重ね、写実を追求し、象徴に達して死んだ。旅に寝て夢は枯野をかけめぐる、この境地に到達した後は、画壇は分裂の続出である。ピカソの内面描写の変転痛苦を、才人と呼ぶ人が多いが、盲人の哀れさと思う。

五月三十一日

日本の小説を読んでみる。繊細微妙なその美しさに感歎した。私はいつの間にかこんな感心の仕方を、自国の文学にしなければならぬように、なったのであろうか。しかし、誰も彼も、無意識に、寄ってたかって、プルーストをやっていたのだ。つまり、死ぬ練習をしていたのである。もう良い加減に、生きる練習をしなければならぬ。

何より先ず、生きる事だ。新しい文学は、つまらなくてもかまわない。

六月一日

人はそれぞれ心に聾を持っている。日本にいると自分の聾の部分には、滅多に気附くものではない。